雪が降る。地に触れつぎつぎ溶けてゆく。春はどこまで春はそこまで。陽は名残りを惜しみ暮れてゆく。根雪も日毎に薄皮を剥がされる。どすん。背後で屋根から雪が落ちる音を聞く。冬の最終章。白牡丹の雪片を落とし幕はひかれゆく。
スーパーの生花売り場に桜の枝が売っていたのだった。書かれていなければ桜なのだとわからなかったし、ソメイヨシノやらなにやらなんてどうでもいい。だたその枝に惹かれた。枝はしがな一日灯のともる部屋にあり、少しずつ桃色の蕾みがふくらみ薄いごくごく薄い桜色の花をつけた。 さくらさくら、鼻を近づけても匂いはしない。それでもじっとしているとかすかに、樹、を感じる心持ちになる。可憐な花を持つ木の奥にある芯の強い感覚。 併し暫くして花びらは薄茶にしみったれ皺々と首をたれさげはじめる。風がないのだ。若しくは散らせるほどの何かが。切られた枝ならば口唇に咥え踊り舞えばよかったのか。 やっきになってくしゃくしゃのしみったれた花を端から摘んでいく。 手のかかるところまで、めめしいところまでおとこみたいだ。
★ 桜の樹の下に死体が埋まっているはずがない。 |