「痛。」 指を咥えて雨に濡れた窓を睨む。切ってしまった。キャベツの芯へ立てたつもりが人差し指の第一関節に沿って刃が入ったのだ。 朝はせわしい。手相でいうところの月丘辺りを頼りに支度を続ける。ぽとりぽとり音がしている。流しの方へ向けた指先から血が滴っているのだ。 玉子とキャベツを軽く炒めて白だしで味付け。作り置きの蓮根と凍み豆腐の煮物は火を通せばいい。梅漬など漬物をいくつか冷蔵庫から出す。ご飯とお味噌汁をよそったところで、指先をテッシュで強く押さえて祖母を呼ぶ。
いつも通りの食卓を背にお湯を沸かしている。プレスした苦いコーヒーを飲むのだ。たとえ血を舐めた朝でも。
赤く染まった流し台へ蛇口を勢いよく開く。「大したことじゃない」 流される音も雨音にかき消された。 |