共鳴して振るえる ・・・あとがき
初夏、僕は蛍を見にいきました。
まだ小学生だった頃、僕は学校の帰り道に、よく道草をしました。線路沿いに土手があり、一番星を探しながら暗くなるまで空を見上げていたものです。
そこは自分以外の友達とうまく話しをすることができなかった頃の僕の場所でした。大人になった今でも、心配して迎えにきた父の運転する車のフロントガラスに、一匹の蛍がとまった日のことを思い出します。
「ご飯だよ」それだけを静かに言い、僕を助手席に乗せ何も言わずに運転する父。批難をするのでも怒るわけでもなく、いつもの寡黙な父でした。
目の前の蛍も、ゆっくりと、ただ静かに星の如く瞬いていたのを覚えています。
隣の田舎町は蛍の里として有名な場所です。あまいみずが沢山あるこの町では、時期になると一万匹以上の蛍が舞うのです。
夜風が肌に気持ちいい初夏の晩、僕はその景色を目の当りにしました。隣で小学生らしい男の子が歓声をあげています。「クリスマスツリーみたい!」
うんうんきれいだねと相槌をうち、蛍が一斉に次々と光り瞬きだす風景をぼんやりと眺めているうちに、僕は宇宙遊泳をしている錯覚に陥りました。光に共鳴し、小川のせせらぎを耳に、ゆらゆらと天の河を泳いでいたのです。
人は共感・共鳴する動物だといいます。共感することでお互いを好きになりながら生きていく動物なのだそうです。そうしなければ生きていけない弱い生き物なのかもしれません。
そしてそれを記憶していく動物なのです。愛を知りえることができるのも人間なのです。
僕は愛を大切にしていきたい。たとえひ弱でも、人間に生まれたものとして。何が起ころうとも愛することを止めはしないでしょう。
今回素晴らしいクリエイターの方々とこの企画に参加できたことを嬉しく思っています。最後に、SANTA Projectという素敵な場所を与えてくれた関係者の皆様、ありがとうございました。
2001年11月末日 ヲグチトーコ
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